-今も残るアントニン・レーモンド設計のモダニズム住宅-
旧本牧スタンダード石油社宅(ソコニーハウス)の保存・活用について
横浜市中区本牧に、アントニン・レーモンド氏が設計した住宅が今もそのままに残っています。
横浜近代建築アーカイブクラブでは、周辺住民・関連団体との協調のもと、
当建築の保存・活用に向けて、運動を展開してまいります。
旧本牧スタンダード石油社宅(ソコニーハウス)とは...
旧スタンダード石油社宅(2階建タイプ)
横浜市本牧元町75番地、故アントニン・レーモンド氏が設計した住宅が空き家のまま残っています。
建物は、1949〜1950年にかけて建てられた、旧スタンダード石油の社宅(以下、ソコニーハウス)で、
大戦中アメリカに帰国していたレーモンド氏の、戦後の日本における最初の作品として知られています。
戦後間もない当時、庶民の羨望の的であった、50年代アメリカン・ライフ・スタイルを今に伝える建物として、
建築史的・生活文化史的に、大変貴重な存在といえるでしょう。
ソコニーハウスは、東京の伊皿子に4戸、横浜山手に1戸、そして、この本牧にも4戸建てられましたが、
現在も残っているのは、本牧のみ、しかもそのうち2戸はすでに解体されており、
当クラブでは、残る2戸の建物が、今後、保存・活用されることを願い、この文書を掲載いたします。
旧スタンダード石油社宅(平屋建タイプ3棟:うち1棟現存)
まず、このソコニーハウスについて、果たして保存に値するほどの文化財的価値が存在するのか、否か、
また、価値あるものとしたら、それはどの程度のものなのか、ということについて述べたいと思います。
ソコニーハウスは、コンクリートの打放しの躯体に一部縦板張り、
大型の木製サッシュがはめこまれた、モダニズム感溢れる素晴らしい建物です。
レーモンド氏の代表作であり、かつ日本建築学会賞も授与された、自他ともに認める最高傑作である、
「リーダーズ・ダイジェスト東京支社」とほぼ同時期に建てられていることも考えれば、
その血の幾分の一かは流れているのでは、と思います。
しかし、同じ近代建築にあっても、古典建築様式を取り入れた、華美な装飾的建築と比して、
直線的・無装飾的なモダニズム建築に対する文化財的な評価は、官民ともに若干辛口なような感があります。
また、「戦後の建物だから・・・」という、文化財の真の価値とは深い関わりの無い線引きも、明らかに存在すると思います。
過去同様に、社寺仏閣ではないから、江戸以前ではないから、煉瓦建築ではないから、明治時代のものではないから、
という根拠なき線引きが存在していました。
気が付けば、数多くの優れた建築が失われ、国があわてて有形文化財の指定ハードルを下げたとともに、
登録制度を設置し、近代建築の救済に乗り出した次第です。
それでは、ソコニーハウスの文化財的価値を示す客観的な判断基準として、
前述の国登録文化財の対象要件に照らしてみましょう。
そこには、「@原則建築後50年以上経過しており、A国土の歴史的景観に寄与しているもの、
B当時の造形の規範となるもの、C再現することが容易でないもの」と、4つの条件があります。
@の「50年以上」という経年数の根拠がどこにあるのかわかりませんが、
少なくとも、ここには戦前・戦後という線引きはありません。純粋な時間の経過のみです。
因みに、ソコニーハウスは築後50年以上経っていますので、まずはこの第一条件をクリアしています。
また、「A国土の歴史的景観に寄与しているもの」ということについては、
当地は、かつてペリー艦隊の乗組員が故郷を想い「ミシシッピベイ」と名付けた、
断崖の突端に位置する緑豊かな土地であり、現在は市の第3種風致地区に指定されています。
レーモンドがこの歴史的景観に配慮したことは勿論のこと、地形や自生する松林をうまく設計に取り入れていることから、
むしろ土地と一体化した建築として認めることができることから、この条件に適うものといえるでしょう。
「B当時の造形の規範となるもの」について、レーモンドの建築に対する評価は言うまでもありませんが、
当時の「新建築」誌上にてこの作品が発表され、スタイリッシュな外観・内装、ともに庶民の羨望の的になったという事実、
それ以上に、この時期のレーモンド作品が、その後の日本人建築家に与えた影響の大きさを考えれば、この要件は十分に満たしていると思います。
さらには、この作品に対し、当時の横浜市長から「BUILDING HONER OF THE YEAR」が授与されたことも、これを強力に裏付ける理由になりますし、
おそらく日本ではじめて、コンクリートバイブレータを使用した建築であることなど、コンクリート工法上の規範となったことなどもあげられます。
( 施工にあたった白石建設のレーモンドに関する記述。 http://www.shiraishi-ken.co.jp/Index/A01.htm )
最後に「C再現することが容易でないもの」については、「容易でない」とされる理由の中に、
「著名な設計者や施工者が関わった場合」という事項が含まれており、日本において最も功績を残した外国人建築家のひとりである、
「アントニン・レーモンド」のネームヴァリューは、この要件をクリアするに充分足るものですし、
氏の事務所に所属していた三沢浩氏曰くの、「芯はずし」というレーモンド独特の手法が
この建物に取り入れられていることを付け加えておかなければなりません。
これらのことから考えれば、この建物はまさに次世代の文化財としての価値を十二分に備えていることは明らかと言えますし、
数多い横浜の近代建築の中でも、希少なモダニズムの優れた作品として、
「残すべき建物」の筆頭にあげなければならない建築でしょう。
また、この建物を残すことにより、歴史的かつ緑豊かな景観の保全や、建物を有効活用した場合の市民メリット等々、
横浜市また市民は様々な利益を享受できることでしょう。
当クラブでは、「旧本牧スタンダード石油社宅とその景観を救う会」や周辺住民の方々と協同するかたちで、
今後、さまざまな運動を展開してまいります。皆様からのご支援お待ちしております。
資料出典:三沢浩著 『アントニン・レーモンドの建築』(鹿島出版会)/『A.レーモンドの住宅物語』(建築資料研究社)
詳細の説明、最近の動向等については、下記のサイトでもご確認ください。
横浜近代建築アーカイブクラブ
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